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2015年8月 9日 (日)

海のない街~第四話~

今日は風が生ぬるい。
盆地特有のまとわりつくような湿気は慣れないものだ。

生まれ育った場所で人は変わる。

日本人は古来、太陽が神であり、陽が登っている昼間に行動し、
日が沈む夜の闇を恐怖した。
卑弥呼は皆既日食で力が衰えたと思い込んだ民衆に『王殺し』されたとも
言われる。

ところが熱砂の国では陽が照りつけ灼熱になる昼間を地獄と考える。
夜、星が出て心地よくなる闇を愛した。
死後の国は地下にあり涼しくすごしやすい楽園だと考えた。

じゃあここは?
山に囲まれ涼しそうなのに蒸し暑いこの街はなんだ。
夜になってもまったくべたつく空気だ。

早く楽になりたくて「あおい」のドアを開ける。

「いらっしゃいませ」
「はーい、対馬さん、ご来店ー」
「モエちゃん、キンキンに冷えたビールね。海さん、何かさっぱりするおつまみください」

席に座ると何やら山田さんと左右口さんと愛宕さんが楽しそうに話をしている。
平蔵と久栄はモエちゃんにもらったまたたびの原木を嬉しそうにかじっている。
辰蔵はおもちゃでお客さんに遊んでもらっている。

「ねえ聞いた?」
「テレビのお見合い番組の収録やってるんでしょ?」
「そうそう、それでね、知ってる人も出てるらしいのよ~、ここで見たことあるんだけど、
誰だったかしらね~」

「それ池田さんですよ、きっと」モエちゃんがおかわりの焼酎緑茶割りを愛宕さんに
出しながら話に混ざった。
「私が収録の現場に通りかかったときに見たんですよ。」
「だあれ?池田さんって?」

海さんがさっと茄子の煮浸しを出してきた。
水、醤油、出汁、砂糖、鷹の爪を入れた鍋に
皮を焦がすまで焼いて剥いた茄子をいれ煮込み冷蔵庫で冷やしたものだ。

ひと段落した海さんが話しかけてきた。
「池田さんはウチが野菜仕入れてる農家さんなんですよ」
「ははぁ、なるほど。で、お見合い番組って、あのお嫁さん探しするやつでしょ?」
「そうです。それにどうやら池田さんが出演したらしいんですが、お嫁さんが見つかったかどうか・・・・」
「それいつわかるんですか?」
「オンエアはまだまだ先でしょうけど、告白タイムは今日みたいですよ」

ひとしきり3人で盛りあがった常連奥様達が帰るのと入れ替わりに
かわいいどこかで見たことのある女性と80年代のトレンディドラマに出てきそうな
サマーセーターを背中にかけて胸で袖を結んだ男が入ってきた。

「恵美ちゃーん、困るわけよ、マジもんでさー」
「なんで?私はあの人が好きになったんだからいいじゃん!」
「いや、でもさ、一応君みたいなアイドルが参加して、悩んだ末にフラれる人間ドラマつう脚本なんだからさ」

二人でひそひそと、やりあっている。

「あのーご注文は・・・・?」
モエちゃんが困りながらも声をかけると

「あールービーね。チンカチンカに冷えてるの。恵美ちゃんは?」
「私はカクテルがいいなー」
「あ、すみません、うちカクテルないんですよ」
「何か甘いのがいいんだけど?」
困ったモエちゃんは振り返って
「海さーん、甘いお酒何かある?」

海さんは冷蔵庫をのぞくと
「下町ハイボールならできます。ブドウのシロップを多めに入れておつくりいたします」
と答えた。
「じゃあ、それで」
女性は長い髪に手を通しながら言った。

カウンターに走りこんできたモエちゃんは
「ねぇねぇ、あの女の人、グラビアアイドルの鮎沢恵美ちゃんじゃん!?」
海さんは洗い物をしながら
「お客様を詮索しないの」とモエちゃんをしかる。

「なんでOKしたのにNGで告白2回もさせるわけ?しかもごめんなさいって相手にも悪いでしょうが!?」
綺麗なその『恵美』ちゃんはイライラしながら酒を煽る。
男はあたふたしながら
「そんな大声出しちゃダメでしょ?誰が聞いてるかわからないから!マジもんで」

「私はねー、今回の話、最初は台本どおりやろうとしたよ?でも相手の素人さんは台本の存在しらないじゃん?
女性に何人かタレントやモデル混ぜて男性を釣るってのが許せないよ。おかわり!」
グラスを高く上げてカウンターへおかわりをアピールする。
ペースが速い。

「そんなもんよ、テレビなんて。恵美ちゃんが一番良く知ってるじゃん?
マジもんで、視聴率取れるからさ」
「んな、関係ねぇーつう」

にゃー
ドアが開いた。
平蔵も久栄も辰蔵もみな入ってきた客へ駆け寄る。
誰だかわかっているようだ。

「あ、い、池田さん、いらっしゃい」
モエちゃんがおどおどしている。
まさに鉢合わせである。

「あ!」

恵美は池田を指差した。

「あ!」
池田は恵美を指差した。

「さっきの!」
「さっきの!」

プロデューサーらしき男は真っ青になっていた
「いや、これ撮影してたら面白かったのに!マジもんで・・・・

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「まあ、ここ座って」
ぽんぽんと隣りの椅子を叩く恵美。
「いや、そんな、いいです・・・・」
池田はカウンターへ座ろうとする。

「いーから!ほら!」
恵美は強引に腕を引っ張り池田を自分の隣へ座らせた。

「で?」
恵美は下町ハイボールを飲みながら池田を見つめる。
「私、あなたの事が好きになっちゃったのね。でもこのクソ野郎がダメだってさ。
台本と違うから面白くないんだって。それでああなっちゃったのね」
「恵美ちゃーん、そういうの本当にやめよ、マジもんで。池田さん、どうか今日の事は忘れてください、
あのこれ少ないですけれど・・・・」
男は財布からかなりの金額を取り出し池田に渡そうとした。

恵美はその金を握り締めた手を抑えて
「てめぇは黙ってろ。キンタマカチ割るぞ?ああ!?」
すごんだ。
グラビアでははじけそうな笑顔が今や恐怖の女王だ。

「池田さん、あなたはこのお金、欲しいの?」
恵美は問う。

「俺は田舎モノだし、恵美ちゃんみたいな子とは釣りあわないから・・・・」

バン!!!!!

「私が好きだ!つってんだろーが!?
あんたも好きなんだろ!?私は水着着て写真撮られてるより畑耕してるほうが好きなんだよ!
イメージつうもんがあるからいえなかったけどさ!
車だってヘンテコな外車とか本当は嫌いなんだよ!軽トラのほうがカッコいいじゃん!
つーか、私じゃ不足!?好きな人に好きって言って何が悪い!」
テーブルに思いっきり両手を叩きつけて恵美は立ちあがり、一気にまくしたてた。

そして・・・・・

池田をの頬を強引につかむと熱くキスをした。
それは長くて濃厚で、見てるこっちが恥ずかしいキスだった。

「いや~マジもんでしちゃってるよ・・・・」
男は呆然としている。

「すごいね~海さん!まだチューしてる!私もちゅーしたいなぁ」
「誰とだよ」
「対馬さんでもいーよ」
「ばか」

海さんは黙っている。

長いキスが終わり真っ赤になりながら
「好きなんです。付き合ってください。お嫁さん前提で」
恵美が静かに言った。
「は、はい」
まだ心ここにあらずだが池田も答えた。

海さん、今日は料理とかないの?
僕は思った。
ここで一言!という感じもしない。

恵美と池田が腕を組みながら帰っていくときに
「池田さん、明日トマトお願いしますね。忘れないでください」
と声をかけながらレシートを渡した。

「海さん今日は静かだったね」
と何気なく聞いてみた。

「人の色恋に口を出すのは野暮ってものです。
それに・・・・」

海さんは洗い物が終わり蛇口を閉めてこういった。

「きらびやかな世界にいる人が土にまみれても好きな人と生きたいと言っているのです。
それが全てではありませんか」

「海さんはどうなの?」
ニヤニヤしながらモエちゃんが聞いてきた。

「恋愛はわかりません」

ビールがぬるくなってしまっていた。
2人の熱にあてられたからだろう。
外はまだまだ暑い。

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