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2015年8月21日 (金)

海のない街~第六話~

今日は祭りだ。
僕はあまり祭りが好きではない。

なぜなら普段は日の目を見れないような人間も現実に生きる一般人と交わるからだ。
もちろん『非日常』と無関係な人間など一人もいやしないのだが。

人間は「自分とは無関係」と思いつつ知らず知らずに悪に加担していたりするものだ。
悪人は悪人で昔はそりゃ映画のような極道もいたのだろうが、
現代は少しでも金をむしりとろうとする人間ばかりだろう。
そうすれば一般人と関わらないほうが難しいものだ。
犯罪とはそういうものだと思う。
戸締りをしないで出かけられる長閑な日本はもう無い。

一応寄付金は納めたが、あまり人付き合いが苦手なので、
神輿を担いだりは遠慮させてもらっている。
その代わりに差し入れ等に気を使っているわけだが。

とりあえず祭りの打ち合わせに顔を出して
その帰り道に『あおい』へ顔を出した。

「いらっしゃいませ」
「はい!まいど」

二人の笑顔がいい。
「今日もビールでいいですか?」
「いや、今日はホッピーもらおうかな。酒場放浪期見てたら飲みたくなっちゃってね」
「はい、わかりました。モエちゃん、ホッピーひとつ」
「はーい」

よく見ると奥のテーブルにみのりがいた。
「やあ、みのりちゃん。チャーハン上手にできた?」
「あ、おぢさん!お母さん喜んでたよ」
「まだお兄さんなんだけどな・・・まあいいや。なんで今日もいるの?」
「美味しいから晩御飯はここで食べることにしたの」
「そっか」
この間、この子は両親の離婚でこの街にやってきたと言っていた。
母子家庭で家に帰っても一人きりなのだろう。

「はい今日は唐揚げですよー」
モエちゃんが揚げたての唐揚げをみのりの前に運んできた。
見るからにジューシーそうである。

「いいな。俺にも唐揚げください」
「もう作ってありますが一手間かけましょう、お待ちください」
海さんはさっと餡かけを作りかけまわしてたっぷりの白髪ネギを添えた。
「これならばお酒にも合うでしょう」
「いつもながら見事ですね」

バタン!扉が勢い良く開いた。
床で寝転がっていた猫達は驚いて飛び起きてしまった
「大変だ!」
「あら川辺さん、どうしましたか?」
「海ちゃん大変なんだよ!」
「神社の言い伝えの子供が出たっていうんだよ」
「まぁ・・・・ずいぶん古いお話ですこと」
二人に割って入った。
「ちょっと待った!神社の言い伝えって急に真後ろに来て驚かせる子供の話でしょ?」
「それそれ!池田んとこの奥さんが神社にお参りに行ったら本殿の後ろから子供がおいでおいでするか
見に行ったらさ・・・・後ろから声かけられて振り向くと、瞬間移動したようにその子供がいたってさ!」
「恵美さんが・・・・」

本当に古い話だ。
何百年も前から街にある小さな神社にある言い伝えである。
しかし伝承の類いである。
誰も本気にしている人間などこの街にはいなかった。

「やだよー私帰り道通るのにさー」
モエちゃんが震える。
「何言ってやがんだ、健太郎!」
「川辺のおじさん!本名で呼ばないで!」
「志村んとこの跡取りなのによー」
「関係ないじゃん!」
ぱんぱんと手を叩いて
「はいはい、二人ともやめてください」
海さんが止める。
「みのりちゃんはそれ食べ終わったら帰りましょうね」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

僕は思った。
あの小さくて古い神社の境内は子供の頃から何度も遊んだ。
そんな話はただの「オカルト」で深く考えたことも無かったのだが、
大人になった、今。
酒は入っていてもはっきりわかる。

「それは双子でしょう」
と、海さんが言うに違いないのだ。
我ながら鋭いなどと思った。

「それは双子でしょう」

ほらきた!

「実はこんな言い伝えがあります」
海さんは続ける

戦国の世、武田家が滅ぼされたときに
恵林寺に火を放つおりに、寺にかくまわれていた女が出てきた。

ある家臣の妻だという女は自分は自害するので
双子の子供を助けてくれと懇願した。

織田家の家臣は迷った。
少しでも未来へ禍根を残しては織田家の存亡に関わると。

「わかった。今生の別れをするがよい」
女は子供を抱き寄せ頭を撫でた。

そのとき刃は光った・・・・

戦国の世の習い。
しかしあの世で親子仲良くするがよい

と。

「その双子の鎮魂のために小さなお社が建てられたのがあの神社の始まりだそうです。
そろそろ夏、お盆になりますし、帰ってきたのかもしれませんね」

みな黙りこくってしまった。
モエちゃんは帰れないと泣き出し
川辺さんも真っ青な顔をしている。

「一度、氏子の皆さんで草刈りでもしてご祈祷するといいのかもしれませんね」

川辺さんが帰り、店も静まりかえった。
久栄と辰蔵が猫パンチでじゃれあっている。

平蔵がモエちゃんの肩に乗ってほっぺたをざらざらと舐めている。
モエちゃんは本気で怖いようだ。

「僕はてっきり双子だから気にすること無いというと思っていましたよ」
と告げると

「私はあまり霊とか信じませんけど、
そういう言い伝えがあるということは後世に先人が何かを残したかったということです。
ですから私は今回の双子騒動の真相はわかりませんが
逆に知る必要もないかと。」

海さんは振り返らずしょうゆ漬けにする枝豆を茹でながら言った。

「あの神社、すこしシロアリに食われているので氏子さんたちが
みれば修理するでしょう」

「え?じゃあ?」
「双子はそれを伝えたかったのかもしれませんね。日本人の歴史は鎮魂の歴史ですから」

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