2016年1月 6日 (水)

綺麗な世界 優しい世界~第一話~

私は発達障害だった。

学生の頃から少し人とずれていて、
空気の読めない子だった。
女の子なのに部屋はゴミだらけ。

人に会う予定がなければお風呂に入らず、
着替えもしない。だからオシャレはどうしたらいいのかわからない。

社会人になってから数年は普通に働けていた。
でもある日突然、耳鳴りがするようになった。
めまい、頭痛、吐き気。
ひどい気分の落ち込み。
自分をまったく肯定できず、冷たく暗いトンネルの中を歩いているような気分だった。
会社に出社しても吐き気で一日中トイレにこもるような状態。

いつの間にか過呼吸を起こして倒れ
そのまま退職届も出さず逃げるように実家に帰ってきた。

それからは部屋に閉じこもり家族とも最低限度の会話しかせず、
少しのお小遣いをもらい、コンビニにだけ出かける生活をした。
コンビニなら会話をしなくて済むからだ。

コンビニでお弁当とビールや日本酒を買ってきて
貪り食う。飲む。
咀嚼などせず、味わうこともせず、ただひたすら喉に流し込み、
胃の中でビールとかき混ぜる。

だんだんひどくなり、
コンビニへ朝買い物に行き、一日中飲んだくれるようになった。
パソコンでひたすらネットを見て最初は喜んでいたが
画面を見ていると眩しく感じるようになり、
ガンガン響いた。

タバコをちょっと吸うようになるも吐いてしまった。
吐瀉物は面倒なのでそのまま放置した。
最初は臭かったがそのうち乾燥した。

部屋はコンビニ弁当の容器が積み上がり、ペットボトルが転がる。
入口からジャンプするように布団に移動する以外は
足の踏み場がない。
その布団も読みかけの漫画や鼻をかんだテッシュ、脱ぎ捨てたパンティで
すぐ埋まった。

私は私でなくなった。
本も開いては見るものの、3秒もしないうちに視界が眩しくなる。
内容が入ってこない。
頑張って読んでも漫画の吹き出し一つ分も記憶できない。
TVは元々ない。ラジオをつけっぱなし。
もうラジオに近づくにはごみが山になりすぎたので
チャンネルを変えることも出来ず、NHKのまま。
聴きたくない演歌、面白くもない漫才、全く自分に関係のないニュース、
火傷しそうなほどの高校球児とボールの快音を流したまま
天井の染みを見つめる事を1年続けた。

友達もみな離れた。繋ぎとめる術もない。
趣味もない。
彼氏もいない。
親はもう年老いた。
実家だから生活保護も受けられない。

ありとあらゆる相談や施設を利用したが同情の相槌は何も生み出さなかった。
詰んだ。

もっと辛い人もいる。
お前なんか甘えだ。
死ねよキチガイ。

私は

私は

私は

死ぬのが怖い。

手首を切ってみた。
血が流れる。
ヒリヒリと痛むだけだった。

睡眠薬も致死量を調べてあきらめた。
セコナールを処方してくださいと主治医に懇願してみたが
説教されてしまった。

なんとかハローワークに行って仕事を探してみたものの、
やる気はあるのに戻してしまい、あっという間に解雇された。

死にたい。でも死ねない。
生きていたくない。
私は
私は

いったいなんだ?

いったい何のために産まれた?

障害を持つこと。
それは身体でも精神でも
幸せなことではない。
個性と片づけるならその責任を負うべきじゃないのか?
しかし実際は面倒くさいで見えないところに追いやっているだけじゃないか。

私は手段も目的もない

そんな時だった。
いつもはぼんやりとしか入ってこないラジオで
「学生が安保法案に反対してハンガーストライキをしています」と言っていた。

気になった。

ネットで調べたらなんてことはなかった。
左翼団体に騙されたのか、大学生がラマダンよりも生ぬるい
座り込みをやる、しかもハンストなのに募金を募っているとか
ロクでもない情報しかなかった。

しかし私はいいなと思った。

こんなクソバカ野郎どものように
お花畑の天下国家に便乗した革命ごっこをしたくはない。

でも発達障害者のために私がハンストをしたらどうなんだろう?
厚生労働省の前で座り込んで完全に食べ物も水も口にしないハンストをやったらどうなんだろう?

私は死にたい。
発達障害者も特別な才能がる人間なんて一握りもいない。
親が資産家でもない限り
みんな頑張りに頑張りぬいてやっとドジっ子になれるかどうか?だ。
そして地べたを這いつくばるようにしてなんとかしがみついてる。
それもかなわぬ人は部屋から出てこない。

そんな表に出てこれない人達に呼びかけても集まりなんかしない。
出てこれない。

そんな人間にはいるはずだ。
―生きていない。ただ死んでいないだけ

しかし私が行動したらどうだろう?

私は死にたい。
ハンストをする。
しかし独りでする。
おかしな団体やNPOなんかに手を出させない。私だけの領域。
賛同者だけいてくれればいい。
姿は見せなくていい。

死ぬという手段のために
「発達障害者の安楽死施設の実現を」訴えハンストするのだ。
私は決めた。

親の財布から1万円抜き取った。
これが東京へ行く資金になる。

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思春期をこじらせるのはみんな同じ~第二話~

私はいつも思うんです。

なんで男子はエッチな話をしてるのに
女子は服とかスイーツの話ばかりしてるんだろう?
好きな芸能人も別にいないし、TVも見ない。
私はラジオを聞くんです。それもAM。

退屈な高校生活、深夜番組に投稿してハガキを読まれるのが一番楽しみです。

でも、もっと興味があることも・・・・できたんだゾ!

なんだか最近、熱くなって・・・・
どうしても我慢できなくて・・・・

「ねぇ!男子ふざけないでよね!」
満里奈が理科の授業の準備をちんたらやってる男子をしかりつけた。

―ちんたら!?

今私、心の中で『ちん』『たら』って言ったよね?

『ちん』の何が『たら』するの?
ダメダメ!今そんなこと考えちゃ!
しっとりしちゃう!

「ほら男子ちゃんとしてよ!」

―ちゃんと『して』よ!?

満里奈!?
あなた男子にちゃんと何を『して』もらうの?
待って!あなたは私より進んでるの?
たしかにちょっと遊んでる風のギャルっぽい感じだし・・・・
でも!そんなのダメ!

「男子!早くそれ入れて!」

―はわわー!

『早く』どこに『それ』を入れるの!?
満里奈ダメだよ!
私たちはまだ高校生なんだよ!?
自分でするだけで我慢しないとなんだよ!
でも満里奈が間違ってそんなことをしていたとしても私目を覚まさせる。
ズッ友だょ?

「ねぇねぇ今日は何やるんだっけ?」
「え?置換反応だよ」

―ドガビーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

痴漢!
反応!

そんな・・・・
痴漢されたら声なんか出せない・・・・
あんなことやこんなことされて・・・・
私たぶん、きっと・・・・

♪ピンポンパンポーン

「生徒の呼び出しをします。2年C組の町田あゆみさん。
担任の黒崎先生がお呼びです。大至急職員室に来てください」

「あれ?あゆみ、あんた何かしたの?」
「え?なんだろ?この間県の書道大会に作品応募したくらいかな」
「入賞したんじゃない?あんた書道すごいもんね。
筆でさらさらさら~っと」

―『筆』!
私、筆で・・・・ああ・・・・

「・・・ゆみ!あゆみ!」
「ええ?」
「何ぼーっとしてんの?早く職員室行きなよ。大至急って言ってたでしょ」
「そ、そうだね」

理科室を出て廊下を職員室へ歩き出した。

大至急。

だいしきゅう。

大しきゅう

大子宮

―きゃーーーーーーーーー!

黒崎先生!
私の子宮はきっとそんなに大きくありません!
ふ、ふ、ふ普通ですから!
ま、まさか

「町田~お前の子宮、大きくないか確かめてやるからな」
なんてあのイケメンボイスで言われちゃうの!?
生徒と教師の禁断の恋!?

ああ!

もう・・・・たえ・・・・られ・・・ない・・・・

バタッ

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海のない街~第八話~

それは僕がいない時だったという。

ちょうど「あおい」には左右口さん、愛宕さん、山田さんの
3人が話しこんでいたそうだ。

猫達はちょうどエアコンの風が当たる場所にそれぞれ陣取ってい、
すやすやと眠っていた。
料理もひと段落し、ほっとした雰囲気があふれていたのだろう。

「こんにちは」

扉が開いた。
モエちゃんは「いらっしゃい!お一人ですか?」と声をかけた。
「あ、いや客じゃないんです。こちらに鬼弦海さんはいらっしゃいますか?」

その男性は長身でスマート、絵に書いたようなさわやかな男性だった。
「き、きげん?海さんならいるっちゃいますけど・・・海さんお客さんだよ・・・あれ?海さん?」
モエちゃんはその男性から目線を逸らしてじっとしている海さんを見た。
いつもと違う。

「久しぶり、海」

男性は自分からカウンターの真ん中へ腰掛けた。
海さんはまだ目をあわさない。

「あのー何かお飲み物は・・・・?」
モエちゃんがおそるおそる聞いてみる。
「せっかくだから日本酒をロックで」

まだ海さんはうつむいている。何も話さない。
常連3人もさすがにこの空気を感じ取ったらしく
話し声が消えた。

「なぜ?ここに・・・・右近くん・・・・」
海さんはやっと口を開いた。しかし目はあわせていない。
「急に仕事を辞めて行方不明になった恋人を探してやっと会えたんだ。
なぜってこともないだろう」
「あなたにはもう関係がないことですから。
不義理をしたのは申し訳なかったです。でも帰ってください」
海さんは震えていたという。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「どうして急にいなくなった。1年前だ。仕事も順調だった。
俺達もうまくいってた、それなのにどうして?」

「私はもう教育の場にいる事に疲れたんです。祖父母もも亡くなったし、
ちょうど良いタイミングでした。」
「僕に一言も言わなかったのは?」
「愛していたから。別れ方がわからなかったの。私はそういうのまったく苦手だし」
「そして今はこのお店を切り盛りしてるわけだ。ふうん」
右近はタバコに火をつけた。

いつのまにか猫はみないなくなった。休憩室に消えたのだろう。
モエちゃんが灰皿をさっと出して距離をとる。

「なぁ、海。怒ってるわけじゃない。僕は君と結婚するつもりだった。
素晴らしい教育者になる素質があった。そのまま君は輝くべきだったよ」
「・・・・私は錯覚していたんです。教育者になる資格なんかなかった」
「特別支援学級の担任としてがんばっていたじゃないか?」
「とにかく私は間違っていたんです」
「・・・・わかった。その件は終わりにしよう。
僕とは?このまま帰れってのも酷い話だ」

海さんは包丁を取り出しカウンターへ置いた。

「気に食わないのならば刺し殺してもらってもかまいません。
私はここにいる。私があなたにしたことは本当に最低で最悪。
何か注文をつけられてもプライドが許しません。
だから刺して下さい。」

右近はタバコをもみ消しやれやれといった顔で立ち上がった。

「また来るよ」
「もう来ないで」
「それじゃ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

僕は帰り道を急いでいた。
すっかり商店街の町おこしプロジェクトで遅くなってしまった。
もう日付が変わってしまう。
あおいに今日は寄れないな・・・・

と前を通りかかろうとしたら店内から明かりが漏れている。
最初は消し忘れだろうと思ったが気になって扉を開けてみる。
鍵がかかっている前提で力をこめたから拍子抜けするほど
あっさりと扉が開いたときに「あっ」と声を出してしまった。

カウンターに突っ伏している海さんがいた。

「どうしたの?海さん?」
「あ、対馬さん、ずいぶん遅いですね」

かなり酔っているようだった。
日本酒を冷でがぶ飲みしていたらしい。一升瓶がもう半分空いている。

「こんな飲み方してたら二日酔いになっちゃいますよ、どうしたんですか?」
体がふらふらとしている。
頬は赤く目はぼんやりとしていつもの涼やかな海さんはどこにもなかった。

「いーんです。ひっく。ほら、対馬さんも飲みましょう、はい、ほら」
無理やりグラスに注いでいる。こぼしそうだ。

「いったい何があったんですか?」
「ちょっとね。元カレが来たんです。うふふ。」
「元カレ?」
「私は元カレから黙って去ったものですから探して歩いていたようですね。
見つかっちゃいました。」
「海さん、もういけない。もう帰って寝ましょう。自宅まで送りますから。ね?」
しかし海さんはがしっと僕の腕を掴んで離さない。

「私は東京で産まれました。母が教師になってやはり教師だった父と出会い私が産まれました。」
「昔話はまた聞きますから、ほら」
「いーんです!ほら座って!飲んでください」
「いやね・・・体に悪いから・・・・」
「父は立派な教師でしたが人間としては最悪でした。暴力、浮気、金銭トラブル・・・・
母は離婚し、教師を辞めてここに戻りました。しかし心労で私が3歳の時に亡くなりました。
私は強引に父に引き取られ、お金には不自由ありませんでしたが愛情もなく、
ただ暗闇を無灯火で走る車のような気持ちで生きていました。」

ろれつが危なっかしいしゃべりで過去を打ち明ける海さん。
グラスを一気に空けた。

「私の逃げ道は勉強と料理でした。上手に料理をすれば、褒めることはなくても父の暴力がないから
自立するために必死で勉強し、料理をしました。
そして私は教師になり、障害者の特別支援学級の担任になりました。そのときです、元カレと知り合ったのは。
カレも教師でした。」

おかわりを要求する海さん。
もう限界は超しているだろうが注がないわけにはいかないようだ。

「しかし、私は父と母が歩んだ道をトレースしていることをずっと気にしていました。
カレは優しい人でしたが。私に穢れた血が流れていると思うと吐き気がしました。
そんな時、祖父母が交通事故で同時になくなり、このお店が閉店せざるを得なくなりました。
私は全ての違和感から逃げました。そしてこのお店を継いだのですよ」

そうだ。
たしかにそうだ。
この街で育ったのならば僕も同じ町内、知らないはずが無い。
しかし、僕はこのお店に通うようになってから海さんを知った。

「私は鬼弦(きげん)から母方の姓、蒼井になり、ひっそりと生きていくつもりでした。」
またぐいっと酒を煽り、お世辞にも上品とは言えない息を吐きながら
「しかし父の呪縛からは逃れられないようです。自分のせいでもありますが」

僕の顔を見つめる。
近い。
ドキドキする。
今すごい大切な話をしているのに何の理由で鼓動が激しいのかわからなくなる。
「鬼弦結城。TVで子育て論を語り、本で綺麗事を書いている有能な悪党、それが私の父。
母を殺して平気な顔をしているあの男の血が流れていると思うと・・・私は!・・・・」

抱きしめた。
壊れそうだ。もうやめてくれ。
「元カレからも逃げました。私は何もなくただ生きると思っていました・・・・
でも・・・・この街はあまりに私に優しすぎる・・・・」

僕の腕の中で泣きじゃくる海さん。
こんな時に気を使って出てこない猫。
照れくさい。
しかし、今この人は壊れる寸前だ。

わからない。わからないけれど今はこうしているしかない

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2015年8月24日 (月)

海のない街~第七話~

強い雨が屋根を叩く。

夕立だった。
ちょうど出かけた帰り道だった僕は「あおい」に飛び込んで難を逃れた。

「モエちゃん、タオルをお出ししてあげてください」
「はいな」

すっかり濡れてしまった頭とTシャツの肩が冷たい。
モエちゃんの渡してくれたタオルでわしゃわしゃと頭を拭く。
僕は昔からこういう日常の動作ががさつだ。
ちゃんと教えられたのだろうがどうも上品ではない。

「ビールとお通しです」
海さんは素早く揃えてくれていた。

今日のお通しはシンプルにきゅうりのお新香だ。
パリパリとしながらも柔らかみもあるちょうどよい漬かり具合で
日本酒が飲みたくなる味だったがさすがに
連日の猛暑で体がバテてきている。
最初だけはビールでのどを潤すしかない。

「あおい」の猫3匹は雨の湿気なのか
ぐでっと横になっている。
遊び好きな辰蔵も軽く腹を上下させて寝息を立てている。
その上下こそが生きている証とはなんとも頼りが無い。

人間朝目覚めないままそのまま死ねたらどれだけ安らかなのだろうか。
朝カーテンを開けておひさまを拝むということは
それだけ今日も生きねばならないということだ。
産まれることですらどういう意味なのかわからないのに、
苦痛を感じる毎日を送っている人間には
喜ばしく清々しいはずの朝日ですら地獄の始まりの合図だ。

「このきゅうり、池田さんが届けてくれたんですよ」
「ああ、そうでしたか。そういえばあの恵美ちゃんとはどうなったんですか?」
「もう一緒に住んでいますよ。お仕事の時は東京まで通ってるそうです。
逆に農業をやるアイドルってことで仕事が増えたとか」
「へえ。そりゃいいことです」
「でも池田さんは尻に敷かれっぱなしです、うふふ」

「あの見た目だからね」
僕がビールをグラスへ手酌で注ごうとすると
珍しくお酌してくれた。

「ギャップ萌えってやつでしょうか」

まだ雨音は強い。
夕立にしてはなかなかに居座っている。

「これではお客さんも来ませんね」
僕が言うと
「こんな時は昔のことを考えてしまうのですよ」
「ほう、たとえばどんな?」
「まだ昔・・・なんて言えるほど経験を重ねてはいませんが、
私がこのお店をおじいちゃん、おばあちゃんから継ぐ前の仕事では
職業柄、たくさんの子供と接することがありました。極端に言えば障害を持った子も」

海さんはきゅうりを2本取り出した。

まっすぐで色もはっきりとしてとても綺麗なきゅうり。
かたや丸まって色も浅黒くとても市場には出回らないきゅうり。

「これは?」僕はたずねた。
「まっすぐなのは池田さんのきゅうりです。曲がったのは近所のおばあちゃんにもらった
家庭菜園のきゅうりです。どう思いますか?」

「うん、曲がって見た目が悪いけど、その方が自然なんでしょ?
だったらこっちかな」
曲がったきゅうりを指さした。

「なるほど。ではまっすぐなきゅうりはダメなのですね?市場にははるかにこちらのほうが出回りますよ?」
「あ、でもやっぱり昔ながらの味しないんじゃない?」
「ブランドで有名な地方のもまっすぐです。それに昔のきゅうりは青臭かったのですよ。
品種改良で今のようにみずみずしく香りも良いものに生まれ変わったんです」
「それは・・・・」

「まっすぐなきゅうりは農家の方がしっかりと管理した証だと私は考えます。
曲がったきゅうりは自然に近いのでしょうけど」

「しかし」

「まっすぐな子も曲がった子もみんな同じきゅうりです」

「・・・・」

「私の前職では軽い、重いはありましたが障害のある子に自然に接することは
本当に難しかったのです。
医療器具がなければ呼吸を続けられない子、発達障害で
違和感がいつしか生きづらさとなりそのまま引きこもりになってしまう子
それらが区別されていた時代から区別されない時代になりました。」

僕は黙って聞いているしかない。
こんなに饒舌な海さんを見るのは初めてだ。

「曲がっているから自然?障害は個性?とんでもありません。
障害があるけど頑張っているんですよ、特別な才能があるんですよ、なんてレアケースです。
みんなはそのまま社会に埋没してしまう子ばかりです。」

「じゃあ手をかけなかったから曲がったのかと言えばそうでもありません。
だって産まれて来るかなんて運です」

「だから曲がった、曲がってないで味が自然だどうのなんて、
そんなどっかのグルメ漫画みたいなことは言いません。
しかしやはり曲がっていないきゅうりはどうしても調理も難しい。」

海さんはうつむいて少し泣きそうになっている

「だから曲がったきゅうりはそれにあった料理や私やモエちゃんのまかないへ使います。
少しの気遣いがあればそれは紛れもないきゅうりです。食べられます」

「しかし、私は自分がいま言ったような事を本当に実行できたのか?
不快な思いをさせていないか?慢心があったのではないかと、今でも思い出し
夜飛び起きてしまうこともあるんです」

ビールは開いた。
しかしモエちゃんも休憩室に引っこんでしまった。

海さんはそっと新しいビールの栓を抜きながら

「私は間違ってばかりです」

とつぶやいた。

何も言えない。
言えるわけがない。

「・・・・なーんて考えているうちに雨が上がります。さあ、そろそろ他のお客様も来るでしょう。
今日はマグロがありますよ」

いつの間にか3匹ものそのそとあくびをしながら起きてきていた。
モエちゃんも休憩室から出てくる。

いつもの「あおい」開店―――


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2015年8月21日 (金)

誤字や脱字について

いつもこのブログのとんでもない文章を読んでいただき
ありがとうございます。

読んでいただいて気付いていると思いますが非常にこのブログは
誤字脱字が多いです

しかしあえて訂正せずそのまま掲載しております。
なぜかと言うと作者であるこの黒井は
発達障害であり、どうしても昔から文章の誤字脱字が多く
困ってきました。

このブログではそれを否定せずありのまま見せようと思っております。
指摘していただいても訂正はいたしません。

ただし内容でおかしな所は推敲してから掲載したり、
あとから内容を書き換えることもありますのでよろしくお願いいたします。

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思春期をこじらせるのはみんな同じ~第一話~

―はぁ、つまんねぇな

俺はいつも通り机で寝たふりをしていた。
そうだ俺はぼっち。

家に帰ったらずっとエロ動画見て自家発電してた。
それだけの人生だった。

中学3年の春に親が思いつきでいきなり田舎暮らしをすると
このA県の田舎の村に引っ越してきた。
悪くはない。
中学のみんなは気のいい奴だし、そのままみんな近くの同じ高校を受験するのが
お決まりらしいので俺もその流れに乗るつもりだ。

しかしサルのように毎日いたしておった俺には困ったことが一つあった。
まだ引っ越したばかりってのもあるのだがネット環境がない。
これじゃあはーんな動画が見れない。
1日5回を義務付けている俺にこれは厳しかった。
この村でできる精一杯のエロを探すしかないのだ。

学校でも通学路でもエロになるものを探した。
最初は日めくりカレンダーの「一粒万倍日」の文字だけでふっくらした。
しかしそんなもん最初だけだ。
人間はエロで進化する。
果てしなくエロを追い求め変態を突き詰めて人間は今まで進化したのだ。
今俺は進化の途中にいる。

エヴォリューション・・・・

人の深遠なる時の流れの中に俺の股間が脈打っているのだ。
ここで固くならずにいつ固くする!

俺は来る日も来る日も探した。
しかし見落としていたのだ。

それはある日の放課後。
掃除当番になった俺は同じ班のみんなと掃除をしていた。

しかし男子がエアギターごっこをして掃除をしない。
俺はぼっちだから一人で雑巾がけをしていた。
バケツで雑巾を絞り、ため息をつきながら床にべちゃっと雑巾を落として
クラウチング的なポーズになって前を向いた。エロンゲーテッドスタート!!!!

その時だ!

前を雑巾がけしていたクラスでも可愛いと噂される愛美の
白い!白いパンティが!
見える!
これが!これがラッキースケベというものか!

俺は全能力を眼球に集中させパンティを焼き付ける作業に移った。
ああ、あの布一枚で女子は花園を・・・・

他の男子は気付いていない!
俺だけの!
俺だけのパンティ!
この白!
ああ!この白を守りたいよ。

ううっ!
やばい!ふっくらしてきた!
―これじゃ立ち上がれない!
勃ちあがっているのに立ち上がれないなんて!
くそ!
それなのに神様はなんと残酷なことか、
まだパンティは見えたまま。
ついに握力テストの時の力み具合くらいになった。
完全に・・・・うご・・・けない・・・・!!!!!!!

ど、どうする!?
男子はエアギターでKissのShout It Out Loudを歌ってる。
これだ!エアギターで盛り上がってるところにモッシュダイブで乱入すればよいのだ!
よし!

このまま床を転がり男子のところまで転がり暴れる。
そのままふっくらが収まるまでサビを叫び続ければ俺はスケベ変態勃起野郎の烙印を押されない!

よし!

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!
これだ!
この回転!
このままいくぜ!
しかし少し床に先っぽが当たって痛い。
しかしこれに耐えねば変態になってしまう。愛美も

「バカ!私のパンツみてふっくらおっきしたんだ!死ね!死をもって償え!」
って言うに決まってる!
いっけぇぇぇぇぇえええええええええええええ!

ガラッ!

「こら!男子!何でKISSなんだ!私はBlack Sabbath派だと何度も言っているだろう!」

担任の入間川先生!

俺は先生のスカートの下で止まった。
ふっくらした。
俺の股間はレッドでホットでチリペッパーなんだぜ

そして親呼び出しを喰らった。


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海のない街~第六話~

今日は祭りだ。
僕はあまり祭りが好きではない。

なぜなら普段は日の目を見れないような人間も現実に生きる一般人と交わるからだ。
もちろん『非日常』と無関係な人間など一人もいやしないのだが。

人間は「自分とは無関係」と思いつつ知らず知らずに悪に加担していたりするものだ。
悪人は悪人で昔はそりゃ映画のような極道もいたのだろうが、
現代は少しでも金をむしりとろうとする人間ばかりだろう。
そうすれば一般人と関わらないほうが難しいものだ。
犯罪とはそういうものだと思う。
戸締りをしないで出かけられる長閑な日本はもう無い。

一応寄付金は納めたが、あまり人付き合いが苦手なので、
神輿を担いだりは遠慮させてもらっている。
その代わりに差し入れ等に気を使っているわけだが。

とりあえず祭りの打ち合わせに顔を出して
その帰り道に『あおい』へ顔を出した。

「いらっしゃいませ」
「はい!まいど」

二人の笑顔がいい。
「今日もビールでいいですか?」
「いや、今日はホッピーもらおうかな。酒場放浪期見てたら飲みたくなっちゃってね」
「はい、わかりました。モエちゃん、ホッピーひとつ」
「はーい」

よく見ると奥のテーブルにみのりがいた。
「やあ、みのりちゃん。チャーハン上手にできた?」
「あ、おぢさん!お母さん喜んでたよ」
「まだお兄さんなんだけどな・・・まあいいや。なんで今日もいるの?」
「美味しいから晩御飯はここで食べることにしたの」
「そっか」
この間、この子は両親の離婚でこの街にやってきたと言っていた。
母子家庭で家に帰っても一人きりなのだろう。

「はい今日は唐揚げですよー」
モエちゃんが揚げたての唐揚げをみのりの前に運んできた。
見るからにジューシーそうである。

「いいな。俺にも唐揚げください」
「もう作ってありますが一手間かけましょう、お待ちください」
海さんはさっと餡かけを作りかけまわしてたっぷりの白髪ネギを添えた。
「これならばお酒にも合うでしょう」
「いつもながら見事ですね」

バタン!扉が勢い良く開いた。
床で寝転がっていた猫達は驚いて飛び起きてしまった
「大変だ!」
「あら川辺さん、どうしましたか?」
「海ちゃん大変なんだよ!」
「神社の言い伝えの子供が出たっていうんだよ」
「まぁ・・・・ずいぶん古いお話ですこと」
二人に割って入った。
「ちょっと待った!神社の言い伝えって急に真後ろに来て驚かせる子供の話でしょ?」
「それそれ!池田んとこの奥さんが神社にお参りに行ったら本殿の後ろから子供がおいでおいでするか
見に行ったらさ・・・・後ろから声かけられて振り向くと、瞬間移動したようにその子供がいたってさ!」
「恵美さんが・・・・」

本当に古い話だ。
何百年も前から街にある小さな神社にある言い伝えである。
しかし伝承の類いである。
誰も本気にしている人間などこの街にはいなかった。

「やだよー私帰り道通るのにさー」
モエちゃんが震える。
「何言ってやがんだ、健太郎!」
「川辺のおじさん!本名で呼ばないで!」
「志村んとこの跡取りなのによー」
「関係ないじゃん!」
ぱんぱんと手を叩いて
「はいはい、二人ともやめてください」
海さんが止める。
「みのりちゃんはそれ食べ終わったら帰りましょうね」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

僕は思った。
あの小さくて古い神社の境内は子供の頃から何度も遊んだ。
そんな話はただの「オカルト」で深く考えたことも無かったのだが、
大人になった、今。
酒は入っていてもはっきりわかる。

「それは双子でしょう」
と、海さんが言うに違いないのだ。
我ながら鋭いなどと思った。

「それは双子でしょう」

ほらきた!

「実はこんな言い伝えがあります」
海さんは続ける

戦国の世、武田家が滅ぼされたときに
恵林寺に火を放つおりに、寺にかくまわれていた女が出てきた。

ある家臣の妻だという女は自分は自害するので
双子の子供を助けてくれと懇願した。

織田家の家臣は迷った。
少しでも未来へ禍根を残しては織田家の存亡に関わると。

「わかった。今生の別れをするがよい」
女は子供を抱き寄せ頭を撫でた。

そのとき刃は光った・・・・

戦国の世の習い。
しかしあの世で親子仲良くするがよい

と。

「その双子の鎮魂のために小さなお社が建てられたのがあの神社の始まりだそうです。
そろそろ夏、お盆になりますし、帰ってきたのかもしれませんね」

みな黙りこくってしまった。
モエちゃんは帰れないと泣き出し
川辺さんも真っ青な顔をしている。

「一度、氏子の皆さんで草刈りでもしてご祈祷するといいのかもしれませんね」

川辺さんが帰り、店も静まりかえった。
久栄と辰蔵が猫パンチでじゃれあっている。

平蔵がモエちゃんの肩に乗ってほっぺたをざらざらと舐めている。
モエちゃんは本気で怖いようだ。

「僕はてっきり双子だから気にすること無いというと思っていましたよ」
と告げると

「私はあまり霊とか信じませんけど、
そういう言い伝えがあるということは後世に先人が何かを残したかったということです。
ですから私は今回の双子騒動の真相はわかりませんが
逆に知る必要もないかと。」

海さんは振り返らずしょうゆ漬けにする枝豆を茹でながら言った。

「あの神社、すこしシロアリに食われているので氏子さんたちが
みれば修理するでしょう」

「え?じゃあ?」
「双子はそれを伝えたかったのかもしれませんね。日本人の歴史は鎮魂の歴史ですから」

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2015年8月13日 (木)

海のない街~第五話~

すっかり暑い。
30度を超える日が連日続くようになった。
もうすぐ夏休みになる。

「こんにちわ」
僕はドアを開けて少し明るめに挨拶をした。
居酒屋「あおい」の開店時間は4時だ。
まだ早いのはわかっているのだがどうしても喉が渇いてしまって
我慢ができなかった。

「対馬さん、まだ早いよー」
テーブルを拭きながらモエちゃんがぶーぶー言う。
平蔵と久栄と辰蔵はどたばた追いかけっこをしていた。

「早いのはわかってるんだけど、ちょっと飲ませてよ。お願い!」
拝み手をして強引に中に入る。

「対馬さん、おかまいはできませんけどどうぞ」
海さんはビールを素早く出してくれた。

さすがに仕込みは忙しそうだ。
てきぱきと動く海さんはいつも違う。
それでも流れるような動作だ。
ぴんと張り詰めた空気が漂う。

ビールをグラスに注ぎながら平蔵と久栄と辰蔵をねこじゃらしでかまう。
平蔵は実戦的な動かし方をしないと反応しない。
物陰から動かしたり人間も頭を使う。
久栄はあまり遊ばないのだがじゃれている他の2匹を追い掛け回すのが
好きなのだ。
辰蔵はもう振ったら振った方向へ走りまわりわかりやすい。

「遊んでもらってるのでこれどうぞ」
海さんは明太子を出してくれた。
「仕込み中なので焼いただけですけどね」

一口食べてみる。
外はカリカリで中はしっとりとレア。絶妙な火の通し方である。
いい塩加減でビールが進む。

また夏が来たのだなぁ。
人生死ぬ時期は人それぞれであるが、平均的な寿命でも
70回くらいしかこない。
しかもひとつとして同じ夏はないのだ。

子供の頃のプール帰りにアイスを食べたあの夏も、
好きな女の子と初めて手をつないだあの夏も、
まだふらふらとしているこの夏も
二度とはこない。

後悔しないように遊ぶのもいいのだろうが、どうしてもそんなに真っ直ぐになれない。
自分の無気力さは正しいのだろうか?
ちょっと調子に乗った人間が川の中州でBBQをやって流されたり、
海で溺れたり。
そんなんで終わる自業自得な人生と何もしないで寝転がっている人生とどちらが得か。

ビールの気泡が立ち上り消えてゆく。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「モエちゃん看板出してきてください」
「はいな」

いよいよ開店である。
やっと正式な客として飲める。
ビールをおかわりしてお通しを口にする。
今日はシンプルないぶりがっこだ。
秋田の名物料理だが燻製のいい香りでぱりぱりとした食感がたまらない。

「これは知人に送ってもらったんです。せっかくなのでお通しにしました。
私が作っていないので今日はサービスです」
焼き鳥への串打ちが終わってほっと一息ついた海さんが説明をしてくれる。

しかし・・・・

今日はみんなの出足が悪い。
いつもなら常連がぞろぞろとやってくるのに今日は誰もこない。
仕込みを見ているだけに気まずい。

「今日はみんな遅いなあ」
「客商売ですからね。こんな日もあります」

そんな時だった。
平蔵が遊ぶのをやめてぱっと奥に引っ込んでしまった。
久栄ものそのそと棚の上に登る。
辰蔵だけが扉の周りをうろうろしている。

「あのーすいません」

扉を開けたのは常連でも一見さんでもない。
女の子の子供だった。
近所の中学校のジャージを着ている。

「はい、いらっしゃいませ。どうしたのかな?」
海さんは優しく答える。

女の子はもじもじしながら
「あの、ここご飯食べられますか?」
「今できるものでよければ作れますよ。さあ座って」

「何かジュース飲む?名前なんていうの?」
モエちゃんは明るくニコニコしている。子供が好きなようだ。
しかしモエちゃんは結婚したらどうするんだ?
そういえば昔、夫婦の性が逆転している家庭が
子供を作ってなんて漫画があったなと思い出した。

「ウーロン茶ください。名前はみのりです」
ジャージのゼッケンに『野牛島』と書いてある。
これは「やごしま」と読むのだがY県以外の人だとわかるまい。

「近所なの?あまり見たことがないよね?」
モエちゃんがウーロン茶を出しながら聞いた。

「私、ずっと東京にいたから。ここに来たの最近で」
「なんでなんで?」
とずばずば質問攻めにするモエちゃんを
「はいはい、そこまで。みのりちゃんは嫌いなものある?」
と海さんは制止した。

「うんと・・・チャーハン苦手」
「どうして?」
「だってお母さんの作るチャーハンはべたべたして美味しくないんだもん」
「なるほどね。じゃあお姉さんの作るチャーハン食べてみる?」
ウインクしながら海さんは言った。
「お母さんでも美味しく作れるように教えてあげるからね」

カウンターの中にみのりも入った。
モエちゃんのエプロンを貸してもらったが少し大きい。

「いい?みのりちゃんがしっかり覚えて美味しいチャーハンお母さんに食べさせてあげよう!」
「できるかな?」
「大丈夫!誰でも名人になれちゃう魔法だよ」

あ、海さんの声ってかわいいんだな。
いつも落ち着いたトーンしか聞いたことなかったけど、
子供相手だとこんな声なんだ。
と、思った。

まずは材料は生鮭の切り身を焼いてほぐしたモノ、
刻んだネギ、そして手でちぎったレタス。これだけらしい。

ボウルを取り出してご飯を入れる。
「ここに1人前なら卵を2つ入れます。さあざっくりかき混ぜてみて」
おそるおそるかき混ぜるみのり。
全体に卵が絡めばいい。良く混ぜる必要はないらしい。

「フライパンを熱して油をあたためます」
みのりにお玉を持たせる。
「ここからはスピード勝負だよ!まずは鮭とネギを入れます」
鮭は火が通っているしネギもあっという間に暖かくなる
「ここでご飯をどかーん!」
みのりは手早くご飯をフライパンに開ける。

「焦がさないようにね。フライ返しとかしなくていいからお玉でかき混ぜるの。
ご飯はつぶさないでね。」
みのりはさっとお玉を使いかき混ぜていく。
なかなか手先が器用なようだ。

「卵が金色にご飯を包んだらレタスを入れるよ!混ぜるだけでいいからね」
ちぎったレタスを入れてかき混ぜる。
火はほとんど通さない。

「これで鮭レタスチャーハンのできあがり!」
フライパンで調理した時間は2分もないだろう。こんなに手早くできるものなのか。

「さあ食べてごらん?美味しくなかったらお姉ちゃん謝るから」
お皿に盛り付けたチャーハンはきらきらと輝いている。
高級中華料理のチャーハンもこんな感じだったなと思う。
それを中学生が簡単にあっけなく作れる魔法はたいしたものだ。

「いただきます」
みのりはスプーンで口に運んだ。

「おーいしー!なんでベタベタしてないの?」

海さんは魔法使いのように指をくるくるさせて
「ご飯と卵を混ぜることが大切なのよ。
お母さんはいつも時間をかけてかき混ぜていなかったかな?」
「うん、べちゃべちゃしてた」
また指をくるくるさせて
「お家のガスコンロだとそうなってしまうの。だからこの魔法をお母さんにおしえてあげてね」
「うん!」

みのりは大喜びで帰っていった。

~~~~~~~~~~~~~~~
猫達が戻ってきた。
猫は子供が苦手だ。
みのりが来たことを察知していたのだろう。

「海さん、すごいね。どこで料理覚えたんですか?」
ビールを飲みながら海さんに聞いてみた
「自己流です。私、子供の頃から料理が好きで。
祖母に習いながら、見よう見まねですよ」
「和洋中なんでもできるからすごいですよ」
「このお店は祖父母が死んだときに閉めるつもりだったのですが、
なんとなく続けてしまっています」

これ以上聞いてはいけないような気がした。

「チャーハン食べますか?」
フライパンを片手に海さんはほほえんだ。

「みのりちゃんは最近、両親の離婚でこの街に来たんです。お母さんと一緒にね。
街に詳しくないのでここにご飯食べにきたのでしょう。お母さん働いてらっしゃいますから」
「あれ?海さんなんでそんな詳しいの?」
「町内会でね、会長さんに聞いたんですよ。みんなで見守ってあげようって
対馬さんが欠席した時です」

しまった!忘れていたことすら忘れていた。
明日町内会長に謝りにいかねばなるまい。

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2015年8月 9日 (日)

海のない街~第四話~

今日は風が生ぬるい。
盆地特有のまとわりつくような湿気は慣れないものだ。

生まれ育った場所で人は変わる。

日本人は古来、太陽が神であり、陽が登っている昼間に行動し、
日が沈む夜の闇を恐怖した。
卑弥呼は皆既日食で力が衰えたと思い込んだ民衆に『王殺し』されたとも
言われる。

ところが熱砂の国では陽が照りつけ灼熱になる昼間を地獄と考える。
夜、星が出て心地よくなる闇を愛した。
死後の国は地下にあり涼しくすごしやすい楽園だと考えた。

じゃあここは?
山に囲まれ涼しそうなのに蒸し暑いこの街はなんだ。
夜になってもまったくべたつく空気だ。

早く楽になりたくて「あおい」のドアを開ける。

「いらっしゃいませ」
「はーい、対馬さん、ご来店ー」
「モエちゃん、キンキンに冷えたビールね。海さん、何かさっぱりするおつまみください」

席に座ると何やら山田さんと左右口さんと愛宕さんが楽しそうに話をしている。
平蔵と久栄はモエちゃんにもらったまたたびの原木を嬉しそうにかじっている。
辰蔵はおもちゃでお客さんに遊んでもらっている。

「ねえ聞いた?」
「テレビのお見合い番組の収録やってるんでしょ?」
「そうそう、それでね、知ってる人も出てるらしいのよ~、ここで見たことあるんだけど、
誰だったかしらね~」

「それ池田さんですよ、きっと」モエちゃんがおかわりの焼酎緑茶割りを愛宕さんに
出しながら話に混ざった。
「私が収録の現場に通りかかったときに見たんですよ。」
「だあれ?池田さんって?」

海さんがさっと茄子の煮浸しを出してきた。
水、醤油、出汁、砂糖、鷹の爪を入れた鍋に
皮を焦がすまで焼いて剥いた茄子をいれ煮込み冷蔵庫で冷やしたものだ。

ひと段落した海さんが話しかけてきた。
「池田さんはウチが野菜仕入れてる農家さんなんですよ」
「ははぁ、なるほど。で、お見合い番組って、あのお嫁さん探しするやつでしょ?」
「そうです。それにどうやら池田さんが出演したらしいんですが、お嫁さんが見つかったかどうか・・・・」
「それいつわかるんですか?」
「オンエアはまだまだ先でしょうけど、告白タイムは今日みたいですよ」

ひとしきり3人で盛りあがった常連奥様達が帰るのと入れ替わりに
かわいいどこかで見たことのある女性と80年代のトレンディドラマに出てきそうな
サマーセーターを背中にかけて胸で袖を結んだ男が入ってきた。

「恵美ちゃーん、困るわけよ、マジもんでさー」
「なんで?私はあの人が好きになったんだからいいじゃん!」
「いや、でもさ、一応君みたいなアイドルが参加して、悩んだ末にフラれる人間ドラマつう脚本なんだからさ」

二人でひそひそと、やりあっている。

「あのーご注文は・・・・?」
モエちゃんが困りながらも声をかけると

「あールービーね。チンカチンカに冷えてるの。恵美ちゃんは?」
「私はカクテルがいいなー」
「あ、すみません、うちカクテルないんですよ」
「何か甘いのがいいんだけど?」
困ったモエちゃんは振り返って
「海さーん、甘いお酒何かある?」

海さんは冷蔵庫をのぞくと
「下町ハイボールならできます。ブドウのシロップを多めに入れておつくりいたします」
と答えた。
「じゃあ、それで」
女性は長い髪に手を通しながら言った。

カウンターに走りこんできたモエちゃんは
「ねぇねぇ、あの女の人、グラビアアイドルの鮎沢恵美ちゃんじゃん!?」
海さんは洗い物をしながら
「お客様を詮索しないの」とモエちゃんをしかる。

「なんでOKしたのにNGで告白2回もさせるわけ?しかもごめんなさいって相手にも悪いでしょうが!?」
綺麗なその『恵美』ちゃんはイライラしながら酒を煽る。
男はあたふたしながら
「そんな大声出しちゃダメでしょ?誰が聞いてるかわからないから!マジもんで」

「私はねー、今回の話、最初は台本どおりやろうとしたよ?でも相手の素人さんは台本の存在しらないじゃん?
女性に何人かタレントやモデル混ぜて男性を釣るってのが許せないよ。おかわり!」
グラスを高く上げてカウンターへおかわりをアピールする。
ペースが速い。

「そんなもんよ、テレビなんて。恵美ちゃんが一番良く知ってるじゃん?
マジもんで、視聴率取れるからさ」
「んな、関係ねぇーつう」

にゃー
ドアが開いた。
平蔵も久栄も辰蔵もみな入ってきた客へ駆け寄る。
誰だかわかっているようだ。

「あ、い、池田さん、いらっしゃい」
モエちゃんがおどおどしている。
まさに鉢合わせである。

「あ!」

恵美は池田を指差した。

「あ!」
池田は恵美を指差した。

「さっきの!」
「さっきの!」

プロデューサーらしき男は真っ青になっていた
「いや、これ撮影してたら面白かったのに!マジもんで・・・・

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「まあ、ここ座って」
ぽんぽんと隣りの椅子を叩く恵美。
「いや、そんな、いいです・・・・」
池田はカウンターへ座ろうとする。

「いーから!ほら!」
恵美は強引に腕を引っ張り池田を自分の隣へ座らせた。

「で?」
恵美は下町ハイボールを飲みながら池田を見つめる。
「私、あなたの事が好きになっちゃったのね。でもこのクソ野郎がダメだってさ。
台本と違うから面白くないんだって。それでああなっちゃったのね」
「恵美ちゃーん、そういうの本当にやめよ、マジもんで。池田さん、どうか今日の事は忘れてください、
あのこれ少ないですけれど・・・・」
男は財布からかなりの金額を取り出し池田に渡そうとした。

恵美はその金を握り締めた手を抑えて
「てめぇは黙ってろ。キンタマカチ割るぞ?ああ!?」
すごんだ。
グラビアでははじけそうな笑顔が今や恐怖の女王だ。

「池田さん、あなたはこのお金、欲しいの?」
恵美は問う。

「俺は田舎モノだし、恵美ちゃんみたいな子とは釣りあわないから・・・・」

バン!!!!!

「私が好きだ!つってんだろーが!?
あんたも好きなんだろ!?私は水着着て写真撮られてるより畑耕してるほうが好きなんだよ!
イメージつうもんがあるからいえなかったけどさ!
車だってヘンテコな外車とか本当は嫌いなんだよ!軽トラのほうがカッコいいじゃん!
つーか、私じゃ不足!?好きな人に好きって言って何が悪い!」
テーブルに思いっきり両手を叩きつけて恵美は立ちあがり、一気にまくしたてた。

そして・・・・・

池田をの頬を強引につかむと熱くキスをした。
それは長くて濃厚で、見てるこっちが恥ずかしいキスだった。

「いや~マジもんでしちゃってるよ・・・・」
男は呆然としている。

「すごいね~海さん!まだチューしてる!私もちゅーしたいなぁ」
「誰とだよ」
「対馬さんでもいーよ」
「ばか」

海さんは黙っている。

長いキスが終わり真っ赤になりながら
「好きなんです。付き合ってください。お嫁さん前提で」
恵美が静かに言った。
「は、はい」
まだ心ここにあらずだが池田も答えた。

海さん、今日は料理とかないの?
僕は思った。
ここで一言!という感じもしない。

恵美と池田が腕を組みながら帰っていくときに
「池田さん、明日トマトお願いしますね。忘れないでください」
と声をかけながらレシートを渡した。

「海さん今日は静かだったね」
と何気なく聞いてみた。

「人の色恋に口を出すのは野暮ってものです。
それに・・・・」

海さんは洗い物が終わり蛇口を閉めてこういった。

「きらびやかな世界にいる人が土にまみれても好きな人と生きたいと言っているのです。
それが全てではありませんか」

「海さんはどうなの?」
ニヤニヤしながらモエちゃんが聞いてきた。

「恋愛はわかりません」

ビールがぬるくなってしまっていた。
2人の熱にあてられたからだろう。
外はまだまだ暑い。

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2015年8月 7日 (金)

海のない街~第三話~

そろそろ夏になる。
今日は親から引き継いだアパートに新しい入居者がいたので
鍵を渡したり、ガスや水道、ゴミ捨ての説明をした。
仕事でこの街に配属になった男性であった。

今日は僕の他には二人連れがいるだけで
静かだった。
モエちゃんもあまりに暇で三匹にカリカリをあげている。
涼やかな海さんの顔。
注文もひと段落したので明日の仕込みをしている。

冷たいビールを飲み干し喉を潤しても
「気にかかる・・・・」のである。

自分のように目標もなく日々を消費している人間は
果たして『正常』なのか?と。
その疑問が心の中に生まれ、そして考え込むうちに
「正常とは何か」がわからなくなった。

金を持ち、結婚をして、老後を迎える。
これが正常なのだろうか?
必死で働きぬきその日を生き抜いてもなお這いつくばるように
生きねばならない命がこの国にある。

テレビもエアコンもこうして美味しい酒も飲める。
しかしこの国のどこかで餓死する老人がいる。
虐待を受けて何のために生をうけたのかわからないまま
殺される子供がいる。

生まれてくることそのものが何かの罰を受けているように思えてきた。
それらが頭をぐるぐると回り続け軽くめまいを覚えた。

「どうしましたか?今日は疲れていますね?」
海さんが声をかけてきた。

「いや、何だか禅問答のようなことを考えてしまいまして」
昼間から考えていることを海さんに話をした。
そういえばこうして長話をできるのは初めてだ。

「なるほど」
「どうですか?わかりますか?」
「さあ、どうでしょう、私は神でも仏でもないので。
しかし、それを知ったとしてどうしますか?対馬さんは
その答えを見つけたときに誰かに教えるのですか?
教えて何がありますか?
人の役に立ちたいから?それでは役に立ってどうなるのですか?」

僕は黙ってしまった。
海さんはふふふと笑って
「それが生きるということだと思います。答えが出るのはきっと命が消える瞬間でしょう。
でも死んだら人に教える事はできないですからね。知らなくて当たり前なのでしょう」

まるで偉いお坊さんと話をしているようだ。
そんな女性が夏が旬の鱸を捌いている。
鮮やかな手つきで包丁を操っている。

「さ、本当なら一日寝かせるのですが、少しだけどうぞ」
海さんが皿をことり、と置いた。

「これは今捌いていた鱸?」
「はい、皮目をバターでカリカリに焼きあげて、醤油とレモン汁のソースで仕上げました」

鱸はセイゴ、フッコ、スズキと名前の変わる出世魚だ。
臭さがある場合が多い魚なのだが
この料理方法ならそれも気にならない。
少し寝かせて旨みを出してから刺身にするのだが身がいかっているので
ソテーにしたのだろう。

「うん、おいしい!これに合うお酒は?」
「ありがちですが白ワインでしょうか?まるきワインさんのいろデラウエア白がちょうどあります」

甲州種100パーセントのワインは辛口ですっきりとしている。
果実のような香りで安心して飲める。

「その鱸は食べられるために生まれたわけではないでしょうね。
食物連鎖の中にいれば死は生と隣り合わせなのですよ。
命の積み重ねがまた新たな命を生むのですね」

にこっと海さんはほほえんでウインクした。
胸がどきどきする。
こんなにかわいらしい表情をする人なんだ。
思わず伝えてしまいそうになる。

「あ、あの・・・・」

「はい!いらっしゃいませー2名様ですか?」
モエちゃんがかわいい声で挨拶をする。
助かったのかもしれない。

入ってきた客は昼間の入居者だった。
「あれ?大家さん!さきほどはどうも・・・・」
「いえいえ。ここはいいお店です。ごゆっくり」

連れの女性はかなりの美人だ。

「さあ、どうぞ。ここは驕りです。やっと会えたんだから
仲良くやりましょう」
男性が明るく話しかけるも女性はどうも歯切れが悪い。
「はぁ」とか「ええ」しか答えが無い。

「今日のおススメはなんですか?あ、餃子があるじゃないですか?
これください。で、ビール、グラス2つで」
モエちゃんに素早く注文をしている
「どうしましたか?気分でも悪いんですか?」
男性が聞く。

もじもじしながら女性はうつむいている。
平蔵がにゃーと女性の足元にまとわりついている。
どうやら平蔵も気になる様子だ。

ビールが運ばれてきて乾杯も無言のまま女性は黙っている。
お通しのお新香にも手をつけない。
男性は色々と話をしているが女性はずっと聞いているだけだ。

モエちゃんがカウンターに戻ってきてひそひそと話す。

「あのお客さん、ネット恋愛してて今日始めて会ったらしいですよ」
「モエちゃん。盗み聞きはよくないわ」
「はーい」
海さんに怒られてしゅんとしている。
かわいい。
かわいいが男だ。

しかし男性があれだけ会えた喜びをあらわにしているのに、
女性はあまりによそよそしすぎる。
いくら初対面とはいえ、ネットで愛を深めたのだ。
それとも恥ずかしくて緊張しているのだろうか?

「モエちゃん、餃子上がったわよ」
海さんは熱々の餃子を皿に盛り付けた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「どうしました?餃子、好きって言ってましたよね?」
「・・・・」
「希望通りこの街に配属になってあなたに会えたんですよ。嬉しくてしょうがない」
「・・・・」
「あのー、何か俺悪いコトしましたかね?」

僕もモエちゃんも聞き耳を立てている。
僕は入居者のプライベートだから本当は聞かないのが筋だろう。
しかし、どうしても女性が気になる。
ネットで恋愛?
どうやって好きになるんだろう?
文章で?
伝わるのかな?

「どうかしましたか?何か悪いところあったら教えてください」
男性は女性に頭を上げた。

「あ、あの・・・あの、ダメなんです。私、外食が苦手で・・・」
やっと女性が口を開いた。
「え、あの、なんか恐怖症とかですか?」
「ちょっと違うんですけど、昔から人前でご飯を食べるのが苦手で・・・
学生の時もお弁当は隠れて食べていたんです・・・・」
「え?そ、そうだったんですか?それは悪いことを・・・・ここ、出ますか?」

男性が女性に聞いたそのとき、
女性の足元をぐるぐるしていた平蔵がついに膝に飛び乗った。
これでは動けない。

「お客様、グラタンはお好きですか?」
海さんがカウンターの中から声をかけた。

「え、はい・・・食べられます」
「では少々お待ちください。」

ほんのりといい香りがしてくる。
バターと玉ねぎの香り。
海さんは何かに気づいたのだ。
だからグラタンを作っている。
彼女はいつもすとんと『腑に落ちる』ことを言う。
川の流れのように実に自然にいつも微笑んでいるのである。
作った飾りの笑顔でも小難しい哲学でもない。
言っていることは深いのにとても簡単な言葉だけで彼女は表現してしまう。

「お待ちどう様でした。ホタテのコキーユになります。もしよろしければこちらの白ワインでお試しください」
「あ、このワイン・・・・」
「どうしました?」
「これ、ウチの近所のワイナリーさんなんです」

彼女はくいっとワインを流し込んだ。
さっきとは打って変わってとても自然である。
「コキーユ、美味しそう」
彼女はスプーンを手にして勢いよく食べだした。

彼女はとてもよく飲み朗らかに語り、笑った。
男性もとても幸せそうだった。

「じゃあ、そろそろ帰りますか」
「ちょっとトイレに」
「お会計済ませておきますよ」

レジの前に立ちお財布を出している男性に海さんはひそひそと何かを伝えた。
男性は大きくうなづいた。
そして海さんは食べなかった餃子を持ち帰りに包んで渡した。

辰蔵が久栄の尻尾を追いかけて遊んでいる。
平蔵は疲れたらしく椅子の上でうとうとしている。

「海さん、さっきなんて言ってたの?」
「ああ、レジでですか?」
「そう」

「彼女にお箸の持ち方を優しく教えてあげてくださいと言いました」
「お箸?」
「はい。彼女はテーブルに座って箸を嫌そうな顔で見ていました。
箸が上手に使えないのでしょう。
それがコンプレックスで人前で食べられなかったのでしょう。
たまに「親の教育がなっていないからだ!」なーんて否定する人もいますから」

よく見ているものだ。
彼女は何か超能力でも持っているのかもしれない。

「超能力持ってると思っているでしょう?対馬さん」
「えっ?いや、その・・・」
「私も箸の持ち方が下手でたくさん練習したんですよ」

同じ経験をしたからか。

「痛みをわかる人間は痛みを知っている人間だけです。
痛みを知らない人間がいくら親身に話しを聞いても何の解決にもなりません。
それを知らない人が多すぎます。」

珍しく海さんが眉をひそめた。

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